AKANE
「殿下、様子が変です! 先程まで我々のすぐ後を走っていた黒の騎士団達の姿がありません!」
アレクシがフェルデンに声を掛けた。
「やはり、おれたちは嵌められたのか・・・!?」
騎士達の中に動揺が走り始める。
「あいつら、まんまとサンタシへ入り込み、囲い込むつもりなんじゃ・・・」
『ピロロロロロロロ』
頭上で黒い影が弧を描いて翔け回る。バスカは夜目がきく。
バスカに運ばせたヴィクトル王宛ての文はすでに王の元へと届けられていた。
無言のまま、フェルデンは馬の速度を僅かに落とすと、左腕をバスカの止まり木代わりに掲げた。ファサ、と優雅に舞い降りた王家の鳥は、駆け続ける馬の上で足に結わえつけられている文を主人に差し出した。服の袖に準備してあった干し肉をバスカに咥えさせてやると、やれやれというように、鳥は再び空中へと舞い上がった。フェルデンは片手で器用に文を広げていく。ともすれば、走る風で吹き飛ばされそうになる羊皮紙の切れ端を手の甲でうまく固定し、書かれている文字に目を走らせた。
“忠告は受け取った。今のところまだ進軍の情報は入ってきてはいない。しかし、迎え撃つ準備はしておくつもりだ。僅かな兵力しか手元に残ってはいまいが、王の務めを最後まで果たす覚悟でいる。
遅くなったが、この度のディアーゼ港での働き、ご苦労であった。そなたの働きは王家の誇りだ。”
読み終えた羊皮紙をぐっと握り締めると、無意識のうちに、フェルデンは出立前からずっと頭から離れようとしないフレゴリーの一言を復唱していた。
出立直前、フレゴリーが医療具を部下にサンタシ陣営まで運ばせる際にフェルデンに話かけてきた。