AKANE
それというのも、小柄の騎士ユリウスの状態が気になるだろうとフレゴリーが気を回してくれたのだが、これが結果的に出立後もフェルデンの心を掻き乱すこととなってしまった。
「そろそろ出立だと聞いたんだが、今、話しても?」
馬の背に食料の荷を結わえつけている最中であったが、フェルデンはその手を止めてフレゴリーに向き直った。
「ええ」
中年の医者は、ごほんと咳払いを一つすると、ユリウスの状態について分かりやすく話し始めた。
「まあ、簡単に言えば命に別状はない。急所は外れているし、そちらの医療班の応急処置が適切だったこともある。けれど、それより問題なのは剣の刺し傷というよりは、別の傷・・・。メフィスの植物による攻撃を受けた傷ですな」
命に別状はないと聞いてほっとしかけた矢先、フェルデンは顔を顰(しか)めた。
「その傷がなにか?」
ふむ、と頷くと、フレゴリーは口髭をぽりぽりと人差し指で掻きながら続けた。
「植物に毒が含まれていたせいで、今は昏睡状態に陥っている。解毒薬を作って飲ませたが・・・、しばらくは目を覚まさないかもしれない」
油断はできない状態かもしれないが、彼の命に別状が無いことに心底安堵した。
「フレゴリー、あなたにはいつも助けられてばかりだ。大した礼もできないが・・・」
敵国の医者だというのに、フレゴリーには、自らの命だけでなく、部下であり友人である者の命まで救って貰ったことになる。若き頃のフィルマンが彼に憧れ、目標にしてきたと話したこと、今ならその気持ちがよく理解できる。
「いいや、わしは大したことはしとらん。確かに傷の手当はしたが、実は傷自体よりも本人の“治りたい”という意志が何より重要なんだ。君の怪我は、君自身の意志が治したのさ」
その言葉は、フレゴリーの謙遜というよりは、真にそう思って医者を続けてきたというような口振りだった。
「そんな謙遜を。あなたは素晴らしい医者です、フィルマンもそう言っていました」
おお、あのときの若造か! っと、フレゴリーは嬉しそうに微笑んだ。彼は若き頃のフィルマンを記憶に止めていたようだ。
「さて、そろそろ患者の様子が気になる。この辺で失礼するよ」
「そろそろ出立だと聞いたんだが、今、話しても?」
馬の背に食料の荷を結わえつけている最中であったが、フェルデンはその手を止めてフレゴリーに向き直った。
「ええ」
中年の医者は、ごほんと咳払いを一つすると、ユリウスの状態について分かりやすく話し始めた。
「まあ、簡単に言えば命に別状はない。急所は外れているし、そちらの医療班の応急処置が適切だったこともある。けれど、それより問題なのは剣の刺し傷というよりは、別の傷・・・。メフィスの植物による攻撃を受けた傷ですな」
命に別状はないと聞いてほっとしかけた矢先、フェルデンは顔を顰(しか)めた。
「その傷がなにか?」
ふむ、と頷くと、フレゴリーは口髭をぽりぽりと人差し指で掻きながら続けた。
「植物に毒が含まれていたせいで、今は昏睡状態に陥っている。解毒薬を作って飲ませたが・・・、しばらくは目を覚まさないかもしれない」
油断はできない状態かもしれないが、彼の命に別状が無いことに心底安堵した。
「フレゴリー、あなたにはいつも助けられてばかりだ。大した礼もできないが・・・」
敵国の医者だというのに、フレゴリーには、自らの命だけでなく、部下であり友人である者の命まで救って貰ったことになる。若き頃のフィルマンが彼に憧れ、目標にしてきたと話したこと、今ならその気持ちがよく理解できる。
「いいや、わしは大したことはしとらん。確かに傷の手当はしたが、実は傷自体よりも本人の“治りたい”という意志が何より重要なんだ。君の怪我は、君自身の意志が治したのさ」
その言葉は、フレゴリーの謙遜というよりは、真にそう思って医者を続けてきたというような口振りだった。
「そんな謙遜を。あなたは素晴らしい医者です、フィルマンもそう言っていました」
おお、あのときの若造か! っと、フレゴリーは嬉しそうに微笑んだ。彼は若き頃のフィルマンを記憶に止めていたようだ。
「さて、そろそろ患者の様子が気になる。この辺で失礼するよ」