AKANE
去り際にぴこりと頭を下げると、フレゴリーは意味深なことを言い残していった。
「全く、ここへ来てからはびっくりし通しだ。あのときの怪我人はサンタシの王子だというし、看病に来ていた別嬪のお嬢さんはゴーディアの国王だというし・・・。一体どうなってる、次は一体何が飛び出す? 王妃か? お姫さんか・・・?」
ぶつぶつと言いながらテントへ戻って行ったフレゴリーの背中を見つめながら、フェルデンは眉を顰(ひそ)めた。確かに、ゴーディアへサンタシの遣いとして行った際に、傷の悪化の為に急遽ボウレドへ立ち寄り、フレゴリーの診療所で世話になった記憶ははっきりと残っている。
しかし、看病してくれていたのは、フェルデンの記憶が正しければ、旅の同行をしていたユリウスだった筈だ。当然のこと、“お嬢さん”なんて人物が診療所に訪ねて来た記憶は全くもって無いし、仮に意識を失っている間に来ていたとしても、そうだとしたら、きっとユリウスがそれをフェルデンに伝えている筈だ。
それなのに、フレゴリーは確かにはっきりと、“看病に来ていた別嬪のお嬢さん”と口にしていた。
もう一度、熱に浮かされたあの晩の記憶を辿ってみる。
確かに、フェルデンはあの晩不思議な夢を見ていた。
温かい手の温もりや、懐かしいチチルの実の甘い香り。
「きっと良くなるから・・・」
と、耳元で囁く優しい少女の声。
あれらは全て、痛みと熱がフェルデンに見せた夢幻だとばかり思っていたが、それだけではなかったらしい。
(どういうことだ・・・? それに、フレゴリーはそれをゴーディアの国王だと言わなかったか・・・?)
出立を直前にて、不謹慎ながらも、ユリウスに事実を問い質したい思いに駆られたが、生憎彼は未だ意識を取り戻してはいない。
ユリウスがどうしてこのことを自分に隠していたのかを考えると、ますます分からなくなってくる。
一度は朱音の命を引き換えに覚醒したクロウに憎しみすら抱き、その首に手を掛けてしまったというのに、どうしてその当の本人が、敵国の王子の看病の為にわざわざ城を離れやって来たのだろうか。
「全く、ここへ来てからはびっくりし通しだ。あのときの怪我人はサンタシの王子だというし、看病に来ていた別嬪のお嬢さんはゴーディアの国王だというし・・・。一体どうなってる、次は一体何が飛び出す? 王妃か? お姫さんか・・・?」
ぶつぶつと言いながらテントへ戻って行ったフレゴリーの背中を見つめながら、フェルデンは眉を顰(ひそ)めた。確かに、ゴーディアへサンタシの遣いとして行った際に、傷の悪化の為に急遽ボウレドへ立ち寄り、フレゴリーの診療所で世話になった記憶ははっきりと残っている。
しかし、看病してくれていたのは、フェルデンの記憶が正しければ、旅の同行をしていたユリウスだった筈だ。当然のこと、“お嬢さん”なんて人物が診療所に訪ねて来た記憶は全くもって無いし、仮に意識を失っている間に来ていたとしても、そうだとしたら、きっとユリウスがそれをフェルデンに伝えている筈だ。
それなのに、フレゴリーは確かにはっきりと、“看病に来ていた別嬪のお嬢さん”と口にしていた。
もう一度、熱に浮かされたあの晩の記憶を辿ってみる。
確かに、フェルデンはあの晩不思議な夢を見ていた。
温かい手の温もりや、懐かしいチチルの実の甘い香り。
「きっと良くなるから・・・」
と、耳元で囁く優しい少女の声。
あれらは全て、痛みと熱がフェルデンに見せた夢幻だとばかり思っていたが、それだけではなかったらしい。
(どういうことだ・・・? それに、フレゴリーはそれをゴーディアの国王だと言わなかったか・・・?)
出立を直前にて、不謹慎ながらも、ユリウスに事実を問い質したい思いに駆られたが、生憎彼は未だ意識を取り戻してはいない。
ユリウスがどうしてこのことを自分に隠していたのかを考えると、ますます分からなくなってくる。
一度は朱音の命を引き換えに覚醒したクロウに憎しみすら抱き、その首に手を掛けてしまったというのに、どうしてその当の本人が、敵国の王子の看病の為にわざわざ城を離れやって来たのだろうか。