AKANE
9話 騎士に捧ぐ
死んだように動かなくなった朱音の身体を、なるたけ冷やさないようにと、ライシェルは自らが羽織っていた藍の衣を、まだ幼さの残るその肩に掛けてやっていた。
触れるとひどく熱を発しているのに、なぜかライシェルの目は、異様な色を感じ取っていた。
華奢なその身体からは、想像もつかない程巨大なものが蠢き、そしてそれは内側に留め切ることができず、じわじわと滲み出しているという表現が適切かもしれない。今までうまく隠していたものが、意識を失ったことで抑制力が弱まったせいかもしれないし、もしくは、眠っていた力が覚醒し始めたようにも見える。
ともあれ、こうして眠りについた途端、彼の身体が急激に回復していくのがライシェルにもはっきりと感じ取れた。力の覚醒により、彼の身体を自然と治癒し始めているのだろう。この調子であれば、夜明けには意識を取り戻し、この場所を出立できるかもしれない、とライシェルは思った。
朱音は図書館の机の上から、窓の外をぼんやりと眺めていた。
今朝のハチミツが頭にこびり付いて離れようとせず、受験勉強に全く身が入らないでいた。
(なんで、あんなどこにでもある蜂蜜なんかが気になったりしてんだろう・・・)
くしゃりと前髪を掻き上げると、大きな溜息を溢した。今朝から、なんだかまだ夢心地というか、なんというか、自分で言うのも何だが、どうも様子が変だと朱音は感じていた。
「あっ、朱音じゃん! 今日も自習しに来てたんだ?」
ふと誰かに声を掛けられ、朱音は窓の外から視線を戻す。
「愛(まな)美(み)・・・」
クラスメイトの愛美である。彼女は、朱音とは正反対の人格を持ち合わせていた。何もかもが人並みな朱音に対し、彼女は家庭環境と容姿に恵まれ、かなりの自信家でもある。受験生という括りにとらわれることなく、彼女は常に恋多き女であった。