AKANE
明け方、ライシェルの予想通り、少年王が目を覚ました。
「気がつかれたようですね、クロウ陛下」
少年王は言った。
「ああ。久しぶりによく眠った気がする・・・。ライシェル、僕はどれくらいここでこうしてた?」
しかし、目を開けた少年王は、昨晩とはまるで別人のような雰囲気を纏っていた。ましてや、昨晩とは一人称や口調までも違っている。
その事に勘付きながらも、ライシェルは敢えて何も口にせず、
「それほど長くはありませんよ。せいぜい四刻程ではないでしょうか」
と、答えた。
「そう・・・。少し遅れをとってしまったよね」
何事も無かったかのように起き上がると、少年王は明るみ始めている空を見上げた。
「ライシェル、馬はここに置いて行こうよ。僕たちは別の移動手段で追いつけばいい。なにかいい案はない? 今ここで飛(ひ)竜(りゅう)を呼んでもいいんだけど、あんまり目立たない方がいいでしょ?」
さらりと“飛竜”という言葉を口にしたクロウに、ライシェルは驚きをなんとか内に圧し止めた。
飛竜は数千年も生きると呼ばれる幻の生物で、このレイシアでその存在を見た者は数える程しかいないと言われている。ましてや、彼らの生息地は現在も不明である。
「飛竜・・・ですか・・・? そんな幻の生き物をどこで・・・」
「ああ。幼かった頃に、父上に一頭貰ったんだ。さすがに生息地までは教えて貰えなかったけれど、貰った飛竜とは血の契約を結んでいる」
滅多なことがない限り感心したりなどしないライシェルでさえ、底知れぬ少年王の力に言葉を失った。
「ライシェルは、父上の代から確か指令官補佐をしていたよね? 実際会ったのは今回が初めてだけど、父上から、あなたが優秀な魔笛使いと聞いたことがある。確か・・・、獣を自由に操れたんじゃなかったっけ?」
黙りこくっていたライシェルだが、自分のもつ能力について少年王に言われていると気付くと、
「仰る通りです」
と、返した。