AKANE
「ライシェル、もう少し大人しくさせていてよ。今からこの鳥と“血の契約”を結ぶ」
少年王はそう言うと同時に、胸元にしまってあったペンダントを取り出し、原型であるナイフへと変形させた。そして、迷うことなくその刃を自らの左手首に宛がった。
異変に気付き、ライシェルが少年王に声を掛けようとするが、今は一時だって笛から口を離すことはできない。
少年王は、シュッと宛がったナイフを手首に走らせた。僅かに眉をしかめると、その直後、ぽたりぽたりと血が滴り始めた。
血の匂いに敏感な巨大鳥は、
「びゃあ」
と、やはり耳障りな鳴き声を上げる。
少年王は、ゾーンの目の前まで近付き、素早くその尖った嘴を無理矢理こじ開けた。そして尚も血液の滴る左手を、肘のあたりまで無理矢理奥に捩じ込んだのだ。
魔笛を吹きながらも周囲の音に注意を払っていたライシェルは、突然少年王がとった危険な行為に、思わずぎょっとしていた。
驚いたゾーンは暫くはバタバタと大きな翼を暴れさせていたが、しばらくすると、その赤い目が落ち着いた朱色へと変化し、急に大人しくなった。
「ライシェル、もう吹くのをやめていい」
クロウの声で、ライシェルは魔笛を口から離した。
いつもならば、ここでゾーンの攻撃に備えて槍をすかさず構えなけでばならないところだが、このときばかりは様子が違っていた。
先程までの凶暴な鳥は、じっと静かに主人の命令を待つ、従順なただの鳥に変わっていた。
「陛下、一体どうやってこの鳥を手懐けたのですか?」
思わず訊ねずにはいられなかったライシェルは、魔笛を袋にしまいながら言った。
「この方法は、父上に飛竜を貰ったときに使った方法だ。“血の契約”と言って、自らの血を飲ませた相手に不老の肉体を与え、魔力を目覚めさせてやる代わりに、僕への忠誠を誓わることができる」
“血の契約”の存在を知らずにいたライシェルは、魔王の血の恐ろしさを今改めてその身に感じた。
「さ、早く乗ろうよ。出発は早い方がいいでしょう?」
華奢な左手首の切り傷は、もう既に塞がりかけている。驚異的な回復力である。
目の前の小さな少年王の底知れぬ力に、ライシェルは恐ろしささえ感じた。
少年王はそう言うと同時に、胸元にしまってあったペンダントを取り出し、原型であるナイフへと変形させた。そして、迷うことなくその刃を自らの左手首に宛がった。
異変に気付き、ライシェルが少年王に声を掛けようとするが、今は一時だって笛から口を離すことはできない。
少年王は、シュッと宛がったナイフを手首に走らせた。僅かに眉をしかめると、その直後、ぽたりぽたりと血が滴り始めた。
血の匂いに敏感な巨大鳥は、
「びゃあ」
と、やはり耳障りな鳴き声を上げる。
少年王は、ゾーンの目の前まで近付き、素早くその尖った嘴を無理矢理こじ開けた。そして尚も血液の滴る左手を、肘のあたりまで無理矢理奥に捩じ込んだのだ。
魔笛を吹きながらも周囲の音に注意を払っていたライシェルは、突然少年王がとった危険な行為に、思わずぎょっとしていた。
驚いたゾーンは暫くはバタバタと大きな翼を暴れさせていたが、しばらくすると、その赤い目が落ち着いた朱色へと変化し、急に大人しくなった。
「ライシェル、もう吹くのをやめていい」
クロウの声で、ライシェルは魔笛を口から離した。
いつもならば、ここでゾーンの攻撃に備えて槍をすかさず構えなけでばならないところだが、このときばかりは様子が違っていた。
先程までの凶暴な鳥は、じっと静かに主人の命令を待つ、従順なただの鳥に変わっていた。
「陛下、一体どうやってこの鳥を手懐けたのですか?」
思わず訊ねずにはいられなかったライシェルは、魔笛を袋にしまいながら言った。
「この方法は、父上に飛竜を貰ったときに使った方法だ。“血の契約”と言って、自らの血を飲ませた相手に不老の肉体を与え、魔力を目覚めさせてやる代わりに、僕への忠誠を誓わることができる」
“血の契約”の存在を知らずにいたライシェルは、魔王の血の恐ろしさを今改めてその身に感じた。
「さ、早く乗ろうよ。出発は早い方がいいでしょう?」
華奢な左手首の切り傷は、もう既に塞がりかけている。驚異的な回復力である。
目の前の小さな少年王の底知れぬ力に、ライシェルは恐ろしささえ感じた。