AKANE

10話 託された意志


 巨大な影が覆い被さり、フェルデンはふと真上を見上げた。
「な、なんだ!?」
 アレクシが、驚き、思わず馬の足を止め、続いて他の騎士達も馬を静止させた。
 巨大な影は、気性の荒いことで有名な、あのゾーンであった。
 立ち塞がるようにして目の前に降り立とうとする巨大鳥に、フェルデンは剣を抜き構えた。この鳥に遭遇したときは、殺るか殺られるかだと、師であるディートハルトに幼いころから教わっていた。
「フェルデン殿下、お待ちを」
 ディートハルトの声と同時、その鳥の背に動く二つの影に目を留めた。
「ライシェル・ギー・・・、クロウ・・・!」
「殿下、これは一体どういうことでしょうか、確か、クロウ王は疲労で倒れていた筈じゃ・・・」
 確かに、昨日会ったときよりもはるかに顔色がいい様子で、少年王は、ひょいっとゾーンの背から飛び降り、礼儀正しくフェルデンの前で頭を下げた。
「フェルデン殿下、途中わたしが倒れてしまったそうで、遅れをとってしまい申し訳ありませんでした」
 フェルデンは、今、こうして目の前にいる少年王が一体何者なのかが分からなくなっていた。
 しかし、美しい黒曜石の目は、じっと真っ直ぐに見つめている。 
「クロウ陛下、御無事で何よりです。ライシェル指令官補佐、お戻りをお待ちしておりました」
 馬から下りた女騎士タリアは、すっと朱音とライシェルの前に跪(ひざまず)いた。
「タリア、留守の間ご苦労だったな」
 ライシェルもゾーンの背から飛び降り、そして朱音のすぐ脇に控えた。
「これはたまげた! 話を遮って悪いが、このゾーン、どうやって調達した・・・? わたしが知る限りでは、この鳥は誰一人として飼い慣らすことなどできない強暴な鳥の筈だが・・・」
 ディートハルトの当然の疑問に、タリアが口を挟んだ。
「ライシェル指令官補佐は、魔笛でどんな獣でさえ操ることができる魔力を持っておられるのです」
 そう言った直後、「いや」と、ライシェルがそれを否定した。
「俺ではない」
 ぎょっとして、他の騎士もライシェルを振り返った。
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