AKANE
なかなか出て来ない城門番に、何らかの異変を感じ、門の近くで待機していた近衛兵二人が首を傾げながら馬車に近付いていく。
「えらく時間が掛かっているようだが、城門番はどうした?」
馬車の前で顔を見合わせて不審がっている近衛兵に、
「いいえ、何でもございませんよ」
と、武器商人はにこやかに返答したが、近衛兵達はその直後、瞬時に顔色を変えた。馬車の積荷置きの中から、どす黒い血がたらたらと伝い落ちていたのだ。
「こ、これはどういうことだ・・・!?」
近衛兵達が行動するよりも先に、中から数人の覆面の男達が勢いよく飛び出し、手際よく近衛兵をとっ捕まえると、ひょいと積荷置きの中に引き摺り込んだ。
声を出す暇もなく、彼らは城門番同様に喉元を掻っ切られ、いとも簡単に絶命した。
何事もなかったかのように、馬車は再び動き始める。城門を潜(くぐり)り、白亜城内の敷地へと・・・。
しかし、この事態に誰も気付くことはできなかった。
城の上からの見張りも、この視界の悪さにほんの先しか見通せない程だった。
それに城内は、確かに人手が足りておらず、常時よりもはるかに少ない兵達が警備にあたっていたというせいもある。
だが彼らは決して怠慢などでは無かった。ヴィクトル王の命(めい)を受け、ましてやいつもより念入りな警備体制を敷ていた程だ。
更に悪いことに、まさか城門番や見張りの近衛兵達も交代時間まではまだ幾らか時間があった。その為、彼らの姿が無いことさえ気付かなかった。