AKANE
尚綴り続けるペンに、何度もインクを付け足しながら、ヴィクトル王は言った。
「でも、陛下。陛下がゴーディアの手に落ちてしまえば、サンタシはそれこそもうお終いです・・・! どうか、どうか、お考え直し下さい・・・!」
エメは目に涙を浮かべながら懇願していた。
エメ自身、この王がサンタシの民にとってどんなに良い王だったのかをよく知っていた。彼女自身、身分の低い家から能力を買われて城へと召し抱えられたのだ。そして、それは他の国ではどんなに難しいことなのかもよく分かっていた。彼は、身分差さえ廃絶してしまえる、そんな偉大な王だったのだ。
そして、それはあのユリウスでさえ例外ではなかった。農家出身で、ただの馬番だった彼の能力と可能性に目を付け、弟と同じ師の下で剣術を学ばせ、そして騎士へと昇格させたのもこの王であった。
「何もみすみす魔族にやられてやろうという訳ではない。わたしとて、少しぐらいは剣の嗜みはある。わたしは諦めの悪い男でな、最後の最後まで立ち向かってみせる」
そう言うと、ヴィクトル王は立ち上がると、重いデスクをぎいと引きずり押した。
ふわふわの絨毯を巻き上げるようにして捲ると、そのその下から隠し扉が現れた。
「陛下、これは一体・・・?」
ヴィクトル王は左の人差し指に嵌めこんでいた指輪を隠し扉の鍵穴に宛がうと、ゆっくりとそれを押し込んだ。
すると、中でかちゃりという解錠した音が小さく響く。
「ここは、王族のみが知る隠し通路だ。王都の外れにある教会へと一本道で続いている」
扉は錆びた鉄の音をさせながら、少しずつヴィクトル王の手により開かれた。
薄暗い階段が扉の下に続いている。
そして、王はその階段の脇に置かれた小箱に手を伸ばした。埃を被った薄汚い木でできたその箱の埃を吹き払うと、そっと大事にその中身を取り出した。
「代々国王にのみ伝えられる国璽(こくじ)だ」
「でも、陛下。陛下がゴーディアの手に落ちてしまえば、サンタシはそれこそもうお終いです・・・! どうか、どうか、お考え直し下さい・・・!」
エメは目に涙を浮かべながら懇願していた。
エメ自身、この王がサンタシの民にとってどんなに良い王だったのかをよく知っていた。彼女自身、身分の低い家から能力を買われて城へと召し抱えられたのだ。そして、それは他の国ではどんなに難しいことなのかもよく分かっていた。彼は、身分差さえ廃絶してしまえる、そんな偉大な王だったのだ。
そして、それはあのユリウスでさえ例外ではなかった。農家出身で、ただの馬番だった彼の能力と可能性に目を付け、弟と同じ師の下で剣術を学ばせ、そして騎士へと昇格させたのもこの王であった。
「何もみすみす魔族にやられてやろうという訳ではない。わたしとて、少しぐらいは剣の嗜みはある。わたしは諦めの悪い男でな、最後の最後まで立ち向かってみせる」
そう言うと、ヴィクトル王は立ち上がると、重いデスクをぎいと引きずり押した。
ふわふわの絨毯を巻き上げるようにして捲ると、そのその下から隠し扉が現れた。
「陛下、これは一体・・・?」
ヴィクトル王は左の人差し指に嵌めこんでいた指輪を隠し扉の鍵穴に宛がうと、ゆっくりとそれを押し込んだ。
すると、中でかちゃりという解錠した音が小さく響く。
「ここは、王族のみが知る隠し通路だ。王都の外れにある教会へと一本道で続いている」
扉は錆びた鉄の音をさせながら、少しずつヴィクトル王の手により開かれた。
薄暗い階段が扉の下に続いている。
そして、王はその階段の脇に置かれた小箱に手を伸ばした。埃を被った薄汚い木でできたその箱の埃を吹き払うと、そっと大事にその中身を取り出した。
「代々国王にのみ伝えられる国璽(こくじ)だ」