AKANE
「兄上・・・! なぜだ!」
羊皮紙がフェルデンの手を離れ。ひらりと教会の床面に舞い落ちた。
「フェルデン殿下、一体なんて書いてあったんですか?」
絶望した様子のフェルデンに、朱音は恐る恐る声を掛けた。
書かれた内容が、きっと良いものではないことくらい、朱音にもよくわかっていた。
「・・・城へは戻るなと・・・! 兄上や国を見捨てて身を隠せと・・・!」
いけないとはわかってはいても、朱音はフェルデンに宛てて書かれた文を拾い上げ、目を通さずにはいられなかった。フェルデン自身、その行為を黙認したのだ。
エメは不安そうな表情を浮かべながら、見覚えの無い美しい少年と、サンタシの王子を見守っていた。
(これじゃあ、まるで遺書じゃない・・・)
朱音はフェルデンが取り乱したのも無理はないと思った。
城まであともう少しのところまで来ているというのに、兄や苦しむ人々を見て見ぬ振りをするなど、優しく正義感の強い青年フェルデンには、きっと身を切るよりも辛いことだろう。
「エメ、他に何か情報を教えてくれないか?」
こくりと頷くと、エメは持ちえる情報を全て託そうとした。
「隠し通路は、恐らくまだゴーディア兵には勘付かれてはいません。それから・・・、壁を隔てて聞いてしまったことなのですが、先に城内に入り込んだゴーディア兵が城を占拠、それと同時に王都を取り囲んでいた仲間を集めると言っていました。」
フェルデンはふっと目を伏せ、黙り込んだ。
一足遅かったのかもしれない、フェルデンも朱音も思わず唇を噛み締めずにはいられなかった。
「エメ、あなたは今すぐにでも安全な場所まで逃げて。そうだ、あなたの故郷の、ええと、そうだ、ロージ村へ向かって。そこならきっと、まだゴーディア兵の手も及んでいないだろうから・・・」
「は、はい・・・!」
エメは見ず知らずの少年が、どうして自分の名前や故郷を知っているのかということにとても驚いたが、聞き返すことは決してしなかった。
「クロウ、俺はやはり兄上とサンタシの民を見捨てることなどできない。たとえこの地で滅びようとも、俺は、サンタシ騎士団の騎士らしく、最後まで戦うつもりだ!」