AKANE
「ほう。それではどうも辻褄が合わなくなる。実を言うと、この城にクロウ陛下が訪ねて来られたのだ。そしてわたしに力を貸して欲しいと申し出た。“しばらく城を空けている間に、何者かに成り代わられた”と。そして、“その男を止めなければならない”と」
 王室に集結していたゴーディア兵達が、ひそひそと近くの者と話始めた。
 ヘロルドは、顔を真っ赤にして叫んだ。
「この噓吐き愚王めが!! そのような嘘八百で我軍の動揺を誘おうなどと、なんと愚かな!」
 興奮するヘロルドとは対照的に、ヴィクトル王はひどく落ち着いた口調でこうも付け加えた。
「嘘などではない。現に、クロウ陛下は我弟フェルデン・フォン・ヴォルティーユと共に、今まだこのサンタシ国内におるのだから」
 堪らずに、ヘロルドは近くにいた兵士達に命を下した。
「この愚王の息の根を、今ここで絶つのだ!!」
 戸惑いながらも、上官の命に背くことの許されない兵士は剣を抜きヴィクトル王へと向けた。
 その瞬間、さっと碧くたなびく髪がヴィクトル王の前に舞い降りた。
「ア・・・、アザエル閣下・・・!」
 剣を構えていた兵士達は狼狽し、その美しくも冷たい嘗ての上官から視線を逸らすことができなかった。
「ま、まだ生きていたのか! なんてしぶとい男だ!」
 ヘロルドは明らかに背中に冷たい汗を掻いていた。
 この男だけはできるならば敵にはしたくなかった。
(ちぃっ、ボリスめ! あの能無しめ! アザエルは死んだと言っていたのに、この通りぴんぴんしているではないか! くそっ、予定が随分狂ってきた・・・!)
「しっかりしろ、お前達! よく見ろ。こいつは嘗ての魔王陛下の側近ではない! 今や、只の罪人アザエルだ」
 ヘロルドの言葉に、ゴーディア兵達は生唾をごくりと飲み込んだ。
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