AKANE
 アザエルは次の攻撃にそなえて更に武器の硬度を上げさせていた。
「俺、あんたの主人にボロ負けして、瀕死の重傷を負ったんだよな。で、使いもんにならねえ身体を回復する為に、部下が身代わりになってくれたって訳」
 それまで笑顔を浮かべていた赤髪の青年の顔から、一切の笑いが消えた。
「仲間を殺すことで魔力を吸収、増強したのか」
 ふっと口元を歪ませると、アザエルは冷え切った言葉で付け加えた。
「まあ、手間が省けていい。どちらにしろ、近いうちにドラコはわたしの手で消滅させるつもりでいた」
 ギッと今までに無く、緋色の鋭い眼つきでアザエルを突き上げるように睨み上げる。
 その目は、野生の獣のようであった。
「確かに俺はアンタの言う通り仲間の命と引き換えに魔力を吸い、こうして力を得た。そして、今ならアンタとも互角に闘える」
 ファウストは、手に炎の玉を渾身の力でアザエルに向けて投げつけた。
 炎の玉は瞬きよりも速く宙を横切り、アザエルの顔面目掛けて飛ぶ。
 『ジュッ』
 アザエルは、硬度の増した水の剣で炎弾を切り裂こうと試みるが、瞬時に水の剣が蒸気へと姿を変えた。尚威力の落ちない炎弾を、アザエルは咄嗟に身を翻してなんとか避け切るが、掠ってもいないというのに、比較的距離が近かった衣服の一部が燃え上がった。
 その後、対象を失った炎弾は、王室の窓ガラスを淵ごと突き破り、夜の闇の中に消えた。
 あのアザエルが、今のファウストの力に僅かに押されていた。
 まるきり慌てた様子を見せず、いつか朱音が魔城の上から飛び降りたときに出現させた水流と同じものを起こすと、アザエルは衣服を焦がす炎を鎮火させた。
「だがな、勘違いはすんな。仲間は俺に全てを託し、そして俺と同化する道を選んだ。俺の中には、仲間の強い思いと魔力が今も尚生き続けてる」
 両の掌を、鉤(かぎ)のように丸めると、ファウストは炎弾の連続攻撃の為に構えた。
「尤もらしい言い訳ということか。所詮お前は仲間殺しの野蛮な賊。それ以上でもそれ以下でもない、自惚れるな」
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