AKANE
 ファウストの周囲の温度が急激に上がり始め、真っ赤な髪が燃え盛る炎のように揺らめく。その姿はまるで、火の中に潜む獣そのものだ。
 瞬く間に、王室の室温は上昇し、中の者は額や背中に汗が噴き出すのを感じた。
 ファウストは、手の平をアザエルに向けると、先程の炎弾よりも一回り大きなものを繰り出した。それを皮切りに、次々と同じものを放ち始める。それこそ、同時に五発ないしは六発を創り出し、アザエルに避ける隙さえも与えないつもりらしい。
 集中砲火を浴びるアザエルは軽い身のこなしで宙を舞い、それらの攻撃をなんとかかわしていく。しかしこうも攻撃の間隔が狭いと、そう長く避け続けることは難しいことに気付いていた。
 一方、避け続ける最中、アザエルは両の手に水針を放つ準備を密かに整え、時期を見計らっていた。
 逸れた炎弾のほとんどは窓を突き破り、暗い王都の空へと消えていったが、何発かは王室内の石の柱や床面に激突し、その部分は簡単に砕け、抉り取ってしまっている。その威力は、頑丈な筈の城面さえも紙粘土のように脆く見せる程であった。
 抉り取られたその場所は、炎弾が起こした衝撃と熱を発し、ぷすぷすと真っ白い煙を立ち上げていた。


時は一刻を争っていた。
 二人は、再びゾーンの背に跨り、真っ暗い雲で覆われた空の中を進んでいた。
 街外れのレイシアス教会でエメと別れた後、すぐさま二人は白亜城を目指し飛び立った。
 そして、今、白亜城の城下、王都の頭上に来ている。真上まで来てみると、視界が利かない中でも街の様子がよく分かる。晴天であれば、さぞや美しい景色が臨めたことだろう。
「少し雨足が弱まったようだ・・・」
 強かった雨はいつの間にか勢いを弱め、遠くの空からは僅かに月明かりと夜の群青色が見え隠れしている。この分だと、もう少しすれば雨は止んでくれるかもしれない。
 
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