AKANE
 朱音はぞっとした。もしあれが直撃していたら、二人と一羽は跡形もなく散ってしまっていただろう。いや、運が良ければ、身体のどこかが焦げた焼肉となって、僅かに残っていてくれるかもしれないが。
 しかし、この“何か”に気付いたのは、朱音とフェルデンだけではなかった。今まで屋内に隠れるように引っ込んでいた王都の住民達が、只ならぬ音に不安を抱き、恐る恐る締め切ったカーテンや窓から顔を覗かせ始めたのだ。
 皆、街のほとんどの人達は、夜中に突然何処からか湧くように侵入してきたゴーディア兵に驚き、怯え、屋内に引っ込んでいたのだ。ゴーディア兵が街中を馬で駆け回る最中に、逃げ出す隙と術を持たなかったからである。
 街路地に隣接する雑貨屋の主人なんかは家の扉から外の様子を見に出てきていた。
「一体、こりゃあ・・・」
 呆然として店前に佇む主人だったが、すぐ様顔色を真っ青にして叫んだ。
「た、大変だ!! 皆、逃げろー!!!」
 空を指差した主人の声を皮切りに、あちこちで風切り音が上がる。

『ピュウウウウ』『ピュウウウウウウ』「ピュウ』
『ゴゴゴゴ』『ビュウビュウ』

 明らかに城の方から、恐ろしい数の“何か”が砲弾のように放たれ、そしてそれは次々に街のあちこちに落下していく。
「!!!!」
 瞬時に街のあちこちで真っ黒い煙が上がり、家の中の物に引火してあれという間に燃え広がっていく。突然降り注いだ死の炎弾に、家から飛び出した人々がパニックを起こして逃げ惑い始めた。
「くそっ! 一体どういうことだ!!」
 フェルデンはビュウビュウと唸り、王都に降り注ぐ炎の玉に為す術もなく、王都を飲み込んでいく炎を見つめていた。
 それでも尚、降り止むことのないそれは、次々と美しい王都を破壊していく。
 いつの間にか雨は完全に上がっていた。これほどの湿気をものともせず、燃え広がる炎弾の火力は通常では考えられない程であった。
 朱音は震えていた。
 目に映った惨劇。燃え盛る炎、巻き上げる煙。何もかもが、大切なあの灰の髪の少年を失ったときと類似していた。
「お前、震えて・・・?」
 フェルデンは、腕の中の少年王が小刻みに震えていることに気付いた。
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