AKANE
 そして、ゴーディア兵やあの卑劣な偽指令官、ヘロルドさえも次々と水流に飲み込まれていくのが、ファウストの視界にも入っていた。
 先程放った炎弾は朱音にうまく当たらなかったようだ。
 王室から流れ出す水流から、巻き添えを食わないように距離をとったまま空中で静止していた。絶対に誰にも飼い慣らすことなどできないと言われる凶暴な巨大鳥ゾーンが、大人しく朱音を背に乗せたまま従順に上空で翼をはためかせている。
「遅くなってしまってすみません、ヴィクトル陛下」
 城の外へ投げ出される瞬間、朱音はヴィクトル王の腕を咄嗟に掴んでいた。
 今、ヴィクトル王は朱音の華奢な手に掴り、ゾーンの背から宙吊りになっていた。
「ノムラさん・・・! そこに降ろして・・・!」
 表情を歪ませながら朱音は懸命に言った。
 水が流れ出て、水浸しになってしまった元王室だった空間に、ゾーンは舞い降りた。
 朱音は、ヴィクトル王を掴んでいた手を離した。途端、ヴィクトル王は濡れた床面にどさりと尻餅をつく。
 その背後から、静かに歩みよる影を見上げ、朱音は口を開いた。
「アザエル・・・」
「お帰りなさいませ、我君」
 碧い髪から雫を滴らせ、美しい魔王の側近は膝をつき頭を垂れた
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