AKANE
 ヘロルドは、ぎょろりとした落ち窪んだ目を赤髪の青年に向けると、何かを企んだようにじっと目を細めた。
「一体何と何を取引きするというのだ」
 ぼたぼたと服の水気を絞り落としながら、ファウストが答えた。
「アンタはゴーディアの王座を手に入れたい。俺はクロウ王を倒し最強を手に入れたい。目的は違えど、互いに殺りたい相手は同じってことに気付かねぇか?」
 ヘロルドは大きな口を吊り上げた。不揃いな変色した歯が覗いている。
「その通りだ」
 真紅の髪を犬のように振って水気を飛ばすと、ファウストは緋色の目を王都へ向けた。
「なら、手伝え」
 偉ぶった青年の物言いがえらく勘に触ったが、ヘロルドは黙って王都に視線をやった。
「・・・お前の仕業か?」
 怒りの為、王都がこのような惨事になっていたことに今の今まで気付かなかったヘロルドだったが、ここで初めて、ここへ来る途中で本当にいい拾いものをしたと今更ながら思った。
「俺が王都で暴れたとしたら、クロウ王は黙って見過ごすと思うか?」
 ぎょっとしてヘロルドは青年を振り返った。
「王都を完全に破壊する気か?」
 その質問に答えないまま、ファウストは言った。
「そういやアンタ、まだ一度も魔術を使ってねぇけど、ほんとに使えるワケ?」
 完全に見下したような口振りで、ファウストはヘロルドに軽蔑した目線を向けた。
「う・・・!」
 痛いところを突かれて、ヘロルドは口をへの字に曲げて呻いた。
「はっ! まさかその地位にいながら、魔術のつかえねぇ奴がいたとはな! 笑えるぜ」
 ファウストの見下げた口振りに、ヘロルドは地団太を踏みたい衝動をじっと堪えた。
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