AKANE
「お前の言う通り、わたしには生まれながらの魔力は携わってはいない・・・! だが、わたしにはこれがある・・・」
 びしょ濡れになった衣服の下から巨大な石の塊を取り出した。赤黒く大きな石は、月明かりの下で不気味に反射した。
「魔光石・・・」
 ファウストは水晶玉ほどの丸い大きな石を見て、なるほどと合点がいった。この男は、同種である魔族の血液を凝縮して作り上げられた、魔光石の力を利用してこの地位に上りつめたのだ。
 ましてや、それ程の魔力を秘めた魔光石を、この狡賢い男がどうやって手に入れたのかまでは興味の範疇には含まれていなかったが。
「なぜ今までそれを使わなかった?」
 ファウストの当然な問い掛けに、ヘロルドは小憎たらしげに答えた。
「これの魔力は強い。だが、力加減が利かないという欠点がある」
 呆れたように溜息をつくと、ファウストは言った。
「つまりは、テメエで力をコントロールしきれねぇってことだな?」
 鉤鼻に皺を寄せ、ヘロルドは青年の横顔を睨み付けた。
「言っておくが、この魔光石だけはお前なんぞに死んでも渡さんぞ」
「いらねぇよ」
 ヘロルドの言葉に重ねるようにして、ファウストは突っ返した。
「俺はそんなチンケな人工物なんかの力には興味ねぇえの。俺が手に入れたいのは、本物の“強さ”だけだ」
 それを聞いてヘロルドはひどく安心した様子で、魔光石を愛おしげにそっと撫でた。
「ま、そのコントロールできねぇ力でも、今はどうやら奴に立ちそうだぜ? この国を破壊するっつう計画の中でならな」
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