AKANE
 ゆっくりと勢力を増しながら着々と王都に近付いてくる竜巻。
 合図の後に突然空の上から現れたのは、一頭の飛竜(ひりゅう)。燃えるようなファウストの髪に相対するような赤みの鱗。背には蝙蝠(こうもり)のように大きく尖った翼が生え、ファウストはその背にひょいと身軽に飛び乗った。
「陛下、わたしがあれを追います」
 アザエルの手にはすでに水の剣が創造されていた。
「うん・・・!」
 朱音は瞳を閉じた。嘗てのクロウの記憶が鮮明に湧き上がる。
 飛竜を追うには飛竜でなければならない。そして、血の契約をせし飛竜をここに召喚する法もまた、知っている。
 すぐにでも駆け出そうとしているアザエルに「待って」と待機を促すと、ふと空を見上げた。
雲よりもずっと高い場所に小さな黒い影。羽を畳み、まっすぐに降下してくるそれは、クロウの飛竜であった。
 真っ黒に光輝く光沢のある鱗に、ぐりぐりした大きな爬虫類の眼。それは、念じた朱音の元でファサと羽ばたき、とても静かに舞い降りた。
「アザエル、この子を使って。彼を追うにはこの子の速さが必要だよ」
 朱音が眠っている間に、どうやらクロウが既にこの飛竜を近くへと呼び寄せていたようだ。
まだ子どもの飛竜は、久しぶりに主に会えたことを喜び、グルグルと喉を鳴らし大きな利口そうな頭を朱音に摺り寄せた。頭に生えかかった角はまだ未熟で、てっぺんが少し出たばかりだ。
「こんにちは、スキュラ」
 朱音は不思議と恐れを抱くことは無かった。懐かしい気持ちになり、嘗てクロウが彼をそう呼んでいたように、飛竜の頭を優しく撫でてやった。
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