AKANE
「俺は、陛下がお亡くなりになる前に国璽(こくじ)を受け賜った。これより、ヴィクトル陛下に代わり、このフェルデン・フォン・ヴィルティーユがサンタシの国王として即位する」
 彼の即位に反対する者は誰一人いなかった。
 彼が若くとも、王としての十分な気質を携えていることを知っていたこともある。そして何より、彼は精神面だけでなくこの大国をも背負ってゆける程の剣の腕を持ち合わせていた。
 フェルデンは、若く、美しく、そして強い。
「いいか、王としてサンタシの騎士達に命ずる。王都には、まだ多くの民が怯えながら逃げ惑っている。一人でも多くの民を、安全な地へと誘導しろ!!」
「はっ」
 ヴィクトル王の死は騎士達にとっても深い哀しみを抱かせたが、それをも感じさせぬほどのフェルデンの勇ましい声に奮い立たされ、白い軍服に身を包んだ騎士達は、ぐっと拳を胸に掲げると、静かに頭を下げた。
「お待ち下さい、新国王フェルデン陛下。我々の魔力も何かの役に立つかもしれません。わたしたちもご一緒しましょう」
 ライシェルが銀獅子を歩ませ、フェルデンの前に進み出た。
「ライシェル・ギー・・・。ああ、頼む」
 フェルデンはライシェルの手を握った。
 不思議なことに、フェルデンはライシェル達の申し出を不快に感じることは無かった。あれ程憎んでいた魔族と共に、こうして互いに手を取り合っていることに、何ら違和感を覚えることは無くなっていた。考えてみれば、人間と魔族も姿形はほとんど同じだということに気付いたのだ。少し前までは、魔族と言えば無慈悲で冷酷だと思っていたけれど、それはひどい思い違いだったようだ。今は、この盲目の騎士が、とても心強く感じることができる。
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