AKANE
 そう言うと、クリストフは漲(みなぎ)る風の力を発動させた。
 突如巻き起こった風に朱音とクリストフの身体がふわりと宙に吹き上げられた。
「うわっ!?」
 不意の出来事に驚き、思わず声を上げた朱音だったが、すぐにその懐かしい感覚に安心感を覚えた。クリストフの起こす風はひどく優しく心地良い。
 巨大な竜巻に近付くにつれ、二人を包む風は次第に強い風に変化していった。
 すぐ近くまで近付いたときには、二人を包む風は竜巻へと姿を変えていた。
 二人は、その中心である目の中で宙に静かに浮いていた。
 しかし、巨大化する竜巻には、大きさでは決して敵わない。二人の竜巻の三倍の大きさはあるに違いない。
「アカネさん、まずはこの竜巻をぶつけることで、進路を逸らすことからはじめましょうか」
 クリストフの提案通り、朱音はこくりと頷いた。確かに、大きさでは敵わないかもしれなが、体当たりすることで、きっと進路くらいは変えられる筈である。
 クリストフはいつもにも増して、強い風の魔力を発揮していた。
 逆回転の竜巻を数回ぶつけることで、進路を変えることを狙ったクリストフの風は、ゆるやかに巨大竜巻にその身体をぶつけにかかった。
 しかし、思いの他強力だった風に、クリストフの創り出した風は安易に弾き返される。
「まだ風の力が十分では無いようですね」
 台風の目の中、クリストフはぐっと力を加えるように、更に注ぐ魔力を増大させていく。この強風を操るには、クリストフ自身かなりの体力と集中力を有していることだろう。
 力を増大させて、更に大きくなった竜巻でもう一度試してみるが、またもや弾き返されてしまい、歯が立たない。
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