AKANE
 彼の無事な姿に、朱音は叫び出していた。
「やはり貴女でしたか。この聞かん坊に言うことを聞かせてくれたのは」
 にこりと微笑んだクリストフに朱音は小さく首を捻る。
 既に塞がりかけている朱音の手の平の傷に気付き、クリストフが「なるほど、考えましたね」と意外な顔をした。
「貴女の血の力は生き物だけでなく、万物に有効なようですね」
 この風使いの言う意味を、朱音はよく理解できなかったが、取敢えずは朱音も少しは役に立ったようだ。
 みるみる縮小していく竜巻の中で、朱音は訊ねた。一体、クリストフがこの巨大な竜巻に何をしたのか、ということを。
「何、単純なことです。竜巻は温かい風が冷たい風の下に潜り込んでできるものですから、一か八かの賭けでもありましたが、とりあえずは竜巻の足元を十分冷たい風で冷やしてやったのです」
 なるほど、いくら強情な竜巻でも、足元を冷やされてはその身体を維持し続けることはできなかったらしい。
あっという間に消え失せていく竜巻の様に、朱音はほっと胸を撫で降ろした。何より、クリストフがこうして無事で戻ってくれたことが、何より嬉しいことであった。
 ゆっくりと穏やかな風に変わりながら、二人取り巻く風は消滅した。
 二人はそっと静かに地面の上に降り立った。
 ヘロルドにによって利用された風達は、クリストフの優しい風に助けられ、解放されたようだ。
 ヘロルドが破壊した王都の一部は、塵とゴミだけが残され、そこに存在した全てが消えてなくなってしまっていた。
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