AKANE

16話 黒幕


「あれだ!!」
フェルデンが馬の足を止めて見上げた。
その先では、赤い飛竜と黒い飛竜が空中戦を繰り広げている。王都から馬で一時間程離れたこの場所で、アザエルは朱音の願い通りファウストの足止め
に尽力していたようだ。
ファウストは飛竜の背で得意の炎弾をアザエルに放ち、アザエルは今までに
見たこともない攻撃を繰り出していた。彼の腕に蛇のように巻き付いた水は、意思に応じて自由に曲がりくねり、さまざまな方向へと攻撃の方向を瞬時に
変えることができる。それはまるで、変幻自在の鞭のようにも見え、先は鋭い
剣のように尖っていて、ときには同時に四方八方に枝分かれして攻撃を加えて
いた。
「どうやらやっとご到着らしいぜ」
ファウストはふんと鼻を鳴らすと、地上からこちらを見つめる二人の姿をア
ザエルに目配せした。
しかし、当のアザエルは、既に二人の存在があったことを知っていたかのように、目も向けず無反応なままファウストに新たな一撃を加えようとした。
「おっと、危ねえなあ! あんた、自分の主人との感動の再会だろう? ちっとは驚いたり動揺したりとか、なんかねぇのかよ」
 アザエルの止まない攻撃を寸での所でかわしたファウストは、呆れたような溜息をつき、美しい碧髪の男を見やった。
 無言のまま尚も攻撃の手を止めようとしないアザエルに、ファウストは“氷の男”と呼称されるだけはあると内心苦笑を漏らした。
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