AKANE
駆けつけるにはあまりに遅すぎたのかもしれない。のどかだった町は見る影もなく、破壊されていた。
きっと、ここでも多くの民が犠牲になったことだろう・・・。
フェルデンが馬で元いた広場まで戻った頃には、アザエルが少年王の身体を起こし、別の場所へと移した後であった。
少年王はぐったりとしたままぴくりとも動かず、透けるような白い肌に、濡れた黒い髪がしっとりとはりついている。
少し離れたところで、真っ赤な髪の青年が倒れているのが視界に入る。
フェルデンは信じられない気持ちでゆっくりと馬の背から降りた。
「死んだのか・・・?」
少年王の傍に立つアザエルは黙ったまま、主の顔を見つめている。
フェルデンは感じていた疑問をその魔王の側近にぶつけた。
「クロウはアカネなのか!?」
乱暴にアザエルの胸倉を掴むと、フェルデンは強い口調で言った。
「何とか言え! アカネなんだろう!?」
アザエルは、冷ややかな声で言った。
「それが、どうだというのだ」
フェルデンは怒りに震える手で、アザエルの頬を思い切り殴った。
よろめいたアザエルはぴっと血を吐き出すと、フェルデンを碧く冷たい眼で見つめた。
「なぜ今まで黙っていた!」
「黙っていただと・・・? ふ、なぜ貴様にわたしがそんなことまで教えてやらねばならぬのだ」
フェルデンは、少々この魔王の側近を信用しすぎていたことに後悔の念を抱かずにはいられなかった。