AKANE
「ブラントミュラー! 一体これはどういうこと!?」
白亜城の展望のよい一室から、怒りの声が響き渡る。
二百年前の約束の後、確かにブラントミュラーは予告通り“神のお告げ”とやらを元に兵を募り、ザルティスの神兵という名の数万の兵を率いた。けれど結局のところ、ベリアルが一番望んでいた魔王ルシファーは、あの時の毒が原因で既に還らぬ人となってしまっていた。
それだけでも耐え難い怒りと悲しみだったが、ベリアルはひたすらに耐えた。もともと病弱だったベリアルは、この二百年の間でますます体調を崩していた。あの憎きクロウと、その実の母の息の根を止めることだけが今のベリアルを生かしていると言っても過言では無い。
「落ち着いて下さい、お身体に障りますよ、愛しい方」
怒りで震える華奢な身体を宥めるように、ブラントミュラーは椅子に腰掛けるようにベリアルに言った。
用意されたお茶のカップは、テーブルの上に転がり、中身はすべて床に零れ滴っている。それは、ベリアルが怒りのあまりテーブルを叩いたのが原因している。
「兵の数は圧倒的にこちらが多いのに、どうしてあの少ない人数にこうもやられているのです! 話が違うではないの!?」
ブラントミュラーは、ふっとオリーブ色の口髭を一撫でして笑った。
「大丈夫、予定通り事は進んでいますよ。あの兵は全兵力の半分以下ですし、ただの時間稼ぎにすぎません。本当の勝負はこれからです」