AKANE
 美しく栄えていた王都はもはや見る影も無い。唯一の救いは、生き残った人々が、仲間の騎士達の手で、安全な場所に避難できているという事実だけであった。
 あっという間に約八割の敵の兵力を失わせてしまったクロウの魔力に、ディートハルトが思わず感嘆の声を漏らした。そして、こんな強い相手を敵に、サンタシは長い間無意味な戦争をしてきたのかと感じずにはいられなかった。
 スキュラと赤き竜は、空で旋回を繰り返しながら、戦況を見守っている。
 残った神兵達も、一瞬の出来事に、ほとんどが戦意を喪失してしまったようである。
 
しかし、その直後、とんでも無いものが天から地に舞い降りたのである。
 ひらひらと舞い落ちる漆黒の羽。
 ふぁさりと漆黒の翼が羽ばたき、禍々しくも美しい光が差す。
「な・・・、なぜ・・・」
クロウの黒曜石の瞳が大きく見開かれる。
蒼黒の長い髪が艶やかに揺らめき、透けるように白い肌と世にも美しく整っ
た顔立ちに誰もが息を呑んだ。
「魔王ルシファー・・・!」
 フェルデンは、失われた筈のその存在が、なぜこうしてここに在るのか理解できずにいた。
 しかし、それはここにいる誰もが同じで、あのアザエルでさえ無言のまま嘗ての主の姿を仰ぎ見ている。
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