AKANE
 クロウは、再会を果たした義理の母の存在だけでも十分、いや、それ以上の精神的なダメージを受けていることは明白である。それにも関わらず、こうして死んだ筈の父、魔王ルシファーが突如として出現し、こうしてクロウを殺そうと攻撃を仕掛けてきたのだ。彼の混乱は当然のものである。
 その様子を可笑しそうに微笑みながら、魔王ルシファーは黒翼をゆっくりと羽ばたかせて、音もなく地上に降り立った。
 何世紀もの長き時代をこの世界で生きていたとは信じられ無い程、その姿は麗しい。
 ルシファーは美しい唇を静かに開いた。
「アザエルよ。お前は嘗て仕えた主を裏切るつもりか」
 アザエルはゆっくりと立ち上がると、嘗ての主を、髪と同色の碧い目でじっと見つめた。
「こうして帰って来たのだ。出迎えの言葉でも聞けると思っていたが」
 クロウを守るように立ち塞がったままのアザエルは、ルシファーに対して何も答えない。
「アザエル、わたしの元へ戻れ。お前とわたしならば世界の全てをその手にできる」
 心地よい程の美しい響きを放ち、ルシファーはアザエルに言葉を紡いだ。
 アザエルは動かないままじっとその主の姿を見つめている。
「アザエル・・・」
 クロウは、アザエルがひょっとして父の元へと行ってしまうかもしれない、そんな不安を感じていた。
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