AKANE
 ディートハルトとフェルデンの剣の隙の無い攻撃も、すいすいとマブは避けてしまう。
「まずい。怒らせたか」
 ルシファーは、死んだザルティスの兵の折り重なった遺体の上に静かに腰掛け、愉快そうに微笑みながらその様子を見つめている。そしてその隣には、碧く美しい魔王の側近が冷たい表情のまま控えている。
 クロウはずきりと胸が痛んだが、そこからなんとか視線を振り切った。
『キーッ』『キキーッ』
 様子を伺うようして飛び回っていたマブが、ぱたぱたと狙いを定めたかと思うと、一匹を残して一斉に三人に向かって飛び掛ってきた。
 ディートハルトが、力強く踏み込み大剣を振るが、すばしっこいマブはなかなか捉えることができない。
 クロウは、ここで一発稲妻を起こせば一気に方が付くことはわかっていたが、マブのすぐ近くに二人がいる為、下手にその攻撃を仕掛けることはできなかった。
 限の無いことにイラついたフェルデンが、魔光石の魔力を発動し剣を振るったことで、とりあえずはマブを吹き飛ばすことに成功した。そしてそれをクロウは逃なさなかった。
 鋭い稲妻を叩き落し、マブを一気に四匹片付けてしまう。
 だが、それはまだ始まりにすぎなかった。
「くはっ・・・」
「ぐう・・・」
 ほっとする暇もなく、それはフェルデンとディートハルトの身体にすぐに異変を起こした。
 突如顔を引き攣らせたディートハルトは、呻きながら大剣を身体の支えに地面へと突き刺しなんとか倒れそうな瞬間を耐え忍んだ。フェルデンは、苦しそうに俯き、肩膝をついている。
『キーッ、キキーッ!!』
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