AKANE
 まるでそれを予測していたかのように、一匹だけ残ったマブが嬉しそうにぱたぱたと飛び様子を伺っている。
「二人とも、一体どうし・・・」
 クロウは利口なマブの策略に気づき、ちっと舌打ちをした。
(毒か・・・!!)
 ルシファーの血を引くクロウには全く効き目のない毒だが、どうもマブのあの気色の悪い口からは毒性のものが発されていたらしい。わざわざ一匹だけが別の場所に止まっていたのは、人間が毒で弱るのを待つ為だったらしい。
「悪い、クロウ・・・。どうやら毒気にあてられたらしい。痺れてうまく力が入らない」
 なるほど、二人の身体は小刻みに震え、まるで痺れ薬を盛られたときのように嫌な汗を掻いていた。
『キキッ、キキッ』
 弱った二人に今だとばかりにマブが飛び掛かった。
「そうはさせない!!」
 クロウはマブを黒い靄を瞬時に掴み取り、紙屑でも握り潰すかのように躊躇なくそれを潰した。
 麗しい微笑みを浮かべるルシファーは、そんな三人の様子をまるで何かのショーの前座でも楽しむかのように、パチパチと拍手を送った。
「クロウ、すっかり力を使いこなせるようになったようだな。ここでお前を失うには惜しい」
 クロウは悲しい目で父を見つめる。
「父上は変わりましたね。以前の父上は、寡黙な方でした・・・」
 そして、何より人を傷つけるような真似を嫌い、誰よりも優しい心を持っていた筈であった。
 その父は、今や別人のように変貌してしまっていた。見た目こそ変わらないが、クロウの知っている父では既に無くなっているのかもしれなかった。
 麗しい笑みを浮かべると、ルシファーはまた羽をふわりと吹き上げた。
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