AKANE
 クロウは、血の混じった唾をぴっと吐き出すと、別人のように変わってしまった父を睨んだ。
「まあよい。クロウ、お前が二人に手を下さなくとも、二人はマブにもうすぐ食い殺されるだろう」
 クククッと笑いを漏らすと、ルシファーは風を切って鎌をクロウに向け振り切る。
 なんとかその攻撃をかわしても、すぐさま次の攻撃がクロウを襲う。宙とひゅんひゅんと切る鎌の音が鳴る。
 クロウの頬にいつの間にか鎌の攻撃を掠ったときについた傷ができ、つうと血を流していた。
(このまま逃げ続けるのはできない・・・。下の二人も気がかりだ・・・。けれど、父上を攻撃するなんて・・・)
 クロウは躊躇していた。
『がっ』
 クロウの盾が再びルシファーの鎌の刃を捉える。
「かはっ」
 クロウは突然勢いよく鮮血を吐き出した。クロウは一体何が起こったのか理解できず、盾ごしにルシファーが口元を愉快そうに歪めている姿を見つめた。
 そして、僅かに視線を下に落とすと、左手で自らの腹部に軽く触れる。
 生暖かく、ぬるりとした感触。感覚の無いその場所に、盾を貫通した鎌の鋭い刃の先が食い込んでいた。
 クロウは持てる力の全てでルシファーを蹴り上げた。
 それ程の威力はなかったらしく、ルシファーは数歩程度後ろに飛ばされはしたものの、まるで何とも無いかのようにすっと体勢を立て直した。彼の身体には未だたった一つの服の綻びさえ見当たらない。
「・・・・・・」
 クロウは、じわじわと広がってゆく腹部の血染みを左の手で押さえながら、一旦地上へ舞い降りた。その手からは盾は消失している。
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