AKANE
「フェルデン陛下!」
ノックなしにバンと大きな音を立てて扉から飛び込んできた小柄の騎士に、フェルデンは特に気に留める様子もなく顔を上げた。眼の下には黒ずんだクマが浮かび上がっている。
本来なら無礼だと刑罰を与えられてもおかしくはないユリウスの行動に、新しく雇われた近衛兵達も困ったように顔を見合わせて苦笑いしている。けれど、遙かに自分達より高い地位にいる彼を咎めることは当然ながらできる筈もなく、兵士は皆不思議で仕方無かった。
まるで子どものような性格のユリウス・ゲイラー青年は、この小柄にしてこの性格にして、なんと指令官の地位に昇格し、実質サンタシ国の軍のトップとなったのだから・・・。
「ああ、ユリか。なんだ、そんなに慌てて」
すっかり結える程に伸びたさらさらの金の髪は、小さく後ろで纏められている。けれど、フェルデンはなぜか以前と変わらぬ軍服を身に纏っていた。本人曰く、この方が落ち着くとのことだったが、どうも違和感は拭い去れない。
「ゴーディアから遣いの者が来ています!」
フェルデンが窓の下を覗けば、入り口の前で近衛兵に剣を向けて静止させられている者の姿が小さく伺えた。
「何用だ」
深く薄汚れたローブを被っているせいで、ここからでは顔までは見ることはできない。
「本人は、クロウ陛下の命令で書状を届けにきたと」
ふうと一息つくと、フェルデンはかたりと椅子から立ち上がった。
「通せ」