AKANE
 彼女から奪うことしかできなかった、せめてもの償い。
 クロウは触れていた少女の胸の短剣を握る手にぐっと力を込める。
 勢いよく抜けた剣の刃は少女の胸から一滴の血も垂らすことなく、傷口を瞬時に癒してゆく。
 けれど、クロウは傷口が塞がりきるよりも前に、その刃を自らの胸に突き立てなければならなかった。
 己の胸に叩き付けるかのように、クロウは剣を突き刺した。
「・・・アカネ・・・、もう一人の・・・僕・・・」
 トサリと棺の脇に倒れたクロウはそのまま動かなくなった。


 ユリウスは自らの失態に舌打ちした。
(くそっ、やられた・・・!!)
 馬を置いてなるべくすぐ後を追いかけた筈だったのだが、城の中に足を踏み入れた途端、侍女や彼につけた護衛の全てがバタバタと通路で倒れ気を失っている。慌てて飛び込んだクロウに宛がわれている客室は蛻の殻だった。
「一体クロウ陛下はどこに・・・!?」  
 ユリウスがドンと剣の柄を感情のままに城の柱に叩き付けた直後、背後に気配を感じ飛び退いた。
「!?」
「ユリウス殿、わたしです」
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