AKANE
 盲目の槍遣い、ライシェルがいつの間にかそこへ立っていた。
「ライシェル殿・・・! これは一体どういうことです・・・!?」
 ユリウスは一瞬クロウとライシェルの裏切りを疑った。
「こんな祝いの日に申し訳ない・・・。しかし、これはクロウ陛下が強く望まれたこと。一介の部下であるわたしには陛下をお止めすることはできなかったのです」
 ライシェルの言っている意味が理解できず、ユリウスは眉を顰(ひそ)めた。
「それは一体どういう・・・」
「わたしはクロウ陛下からフェルデン陛下宛の書状を渡す命を受けています」
 はっとしてユリウスは身を翻して駆け出した。
(まさか・・・!!)
 ユリウスには向かうべき場所はすでにわかっていた。
 そう、あの場所しかない。
 『バン!!』
 勢いよく跳ね開けた部屋の扉の先には、だだっ広く何もない部屋が広がっている。その中央に、美しい黒い棺が横たえられ、そのすぐ脇に小柄な少年の身体が崩折れていた。
「!!!」
 ユリウスは大きく目を見開き、慌てて倒れた人物の元へと駆け寄る。
 美しい蒼黒の髪。閉じられた瞳と、透けるような真白い肌。漆黒の礼服。
「クロウ陛下! しっかりしてください!!」
 クロウの身体を抱き起こした直後、その胸に突き刺さった固い何かに気がつき、ユリウスはそれに視線を落とした。
「そ・・・、そんな、まさか・・・!」
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