AKANE
「もう、帰りたいとは言わないのか・・・?」
 無愛想を装ってはいるけれど、これが少年の精一杯の気遣いなのだ。
「正直すごく帰りたい。父さんや母さんや弟に会いたいって今でもそう思う。今までのが全部夢で、また目が覚めて元の日常に戻れたらって・・・」
 そう言ったきり、しばらく沈黙が訪れる。
 そよそよと揺れ、その音を朱音は心で聴いていた。
「・・・だけど、こうも思ってる。この世界に来られてよかったって」
 今度は湖を見つめる朱音の横顔をロランが見つめる。
「なぜだ?」
 ふっと唇を緩ませると、朱音は言った。
「だって、ロランに会えた」
 驚いたように少年はじっと朱音の横顔を見つめたまま僅かに息を吐いた。
「それに、フェルデンやヴィクトル陛下や、エメにも。サンタシの中だけじゃない、ゴーディアでもたくさんの素敵な人達と出会えた。だから・・・」
 朱音が言わんとしていることに、ロランはふんっと鼻を鳴らした。
「ほんっとお前は馬鹿だな。無理矢理拉致されて無理矢理故郷から引き離されたんだぞ!? どれだけお前はお人好しなんだ」
 腕組みをして、急にぷんすかと怒り始めた少年に、朱音は首を傾げる。
「なんでロランが怒るのよ」
「知るか。お前の心配なんかして損をした」
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