AKANE
驚きのあまり息をするのも忘れて、朱音は今度はまじまじと両の腕や手の甲、平を見る。生粋の日本人の筈の朱音の手は、本来ならば黄みがかった色をしているはずなのだが、妙に白く、染み一つ見当たらない。
だるい身体を勢いよく起こし、朱音は慌ててベッドから飛び降りると、何か姿を映せるものはないかと探し回った。その間も、足首まで伸びた真っ黒な黒髪は、ひどく頭を重く感じさせ、そして歩くのを邪魔する。
(どうしよう・・・、なにか、なにか映るものを・・・)
銀のトレーに載せられた水の入ったグラスと布に気が付き、慌ててトレーごと引っ掴むと、グラスが音を立てて割れて飛び散ることも構わずに、自らの顔をそのトレーに映し見た。
鏡と違い、少し曲がって映った自らの顔は、見慣れている朱音のものではなかった。
真っ黒な長い黒髪、朱音は、これ程までに真っ黒な瞳を見たことは嘗てない。黒曜石の瞳の少年は、朱音が儀式の際にちらと盗み見た棺の中の少年に間違いなかった。
ぽろりと手から離れたトレーが、銀特有の大きな音を立て床に転がる。
勢いよく部屋の扉が開き、紺の制服に身を包んだ近衛兵の若い男が飛び込んでくる。はたと数秒間の沈黙の後、男はしまった、とばかりにたじろぎ、
「で、殿下・・・! 失礼致しました! わたしは、アザエル閣下から部屋の警護を任されておりますトマ・クストーです。大きな物音がしたもので、つい・・・」
肩膝をつき、頭を下げて礼の形をとった男の腰に、剣が帯びられていることに気付いた朱音は、引き付けられるように駆け寄って、その剣を引き抜いた。
はっとした近衛兵の若い男は、
「殿下! 危険です! おやめください!」
と声を張り上げたのも束の間、朱音はその剣を掴んで、自らの長い髪を乱暴にたくし上げると、ザクリとそのほとんどを切り落としてしまった。
「な、なんということを・・・」
男は呆然としながらあわあわとうろたえた。
だるい身体を勢いよく起こし、朱音は慌ててベッドから飛び降りると、何か姿を映せるものはないかと探し回った。その間も、足首まで伸びた真っ黒な黒髪は、ひどく頭を重く感じさせ、そして歩くのを邪魔する。
(どうしよう・・・、なにか、なにか映るものを・・・)
銀のトレーに載せられた水の入ったグラスと布に気が付き、慌ててトレーごと引っ掴むと、グラスが音を立てて割れて飛び散ることも構わずに、自らの顔をそのトレーに映し見た。
鏡と違い、少し曲がって映った自らの顔は、見慣れている朱音のものではなかった。
真っ黒な長い黒髪、朱音は、これ程までに真っ黒な瞳を見たことは嘗てない。黒曜石の瞳の少年は、朱音が儀式の際にちらと盗み見た棺の中の少年に間違いなかった。
ぽろりと手から離れたトレーが、銀特有の大きな音を立て床に転がる。
勢いよく部屋の扉が開き、紺の制服に身を包んだ近衛兵の若い男が飛び込んでくる。はたと数秒間の沈黙の後、男はしまった、とばかりにたじろぎ、
「で、殿下・・・! 失礼致しました! わたしは、アザエル閣下から部屋の警護を任されておりますトマ・クストーです。大きな物音がしたもので、つい・・・」
肩膝をつき、頭を下げて礼の形をとった男の腰に、剣が帯びられていることに気付いた朱音は、引き付けられるように駆け寄って、その剣を引き抜いた。
はっとした近衛兵の若い男は、
「殿下! 危険です! おやめください!」
と声を張り上げたのも束の間、朱音はその剣を掴んで、自らの長い髪を乱暴にたくし上げると、ザクリとそのほとんどを切り落としてしまった。
「な、なんということを・・・」
男は呆然としながらあわあわとうろたえた。