AKANE
この冷たい眼に何度陥れられてきたことか。朱音は無意識にその眼から視線を逸らす。ふっと口元を歪めると、氷の男はそっと朱音の耳元で囁いた。
「今やあなたはこの国の最高権力者なのですよ。あなたがわたしに命令を下せば、チェスの駒を動かすようにいとも簡単にわたしは動くというのに」
喫驚し、黒髪の少年は耳の飾りを揺らしながら、国王の側近の手を掴んだ。
「サンタシから、フェルデンが来ているの!?」
突然壇上でアザエルの腕を掴んだ主の行動に灰の目を丸くし、ルイがあたふたと慌てた。
「へ、陛下・・・? ここは壇上ですよ・・・!」
それでも掴んだ手を離そうとはしない黒髪の少年王に、アザエルは不敵な笑みを浮かべた。
「陛下がお望みならば、ここへお呼びしましょう」
アザエルが警備にあたっている兵に目配せすると、パーティーの人ごみが割れ、通り道ができた。その人の道の奥から少しずつ懐かしい色の金の髪が見え始め、ゆっくりと長身の男が姿を現した。
「・・・フェル・・・」
どんなに願っても二度と会うことは叶わないと思っていた愛しい青年が、人垣から一歩進み出た。その後ろには懐かしいロランの姿はなく、いつしかセレネの森で見た小柄な騎士の姿があった。凛とした男らしい顔で、フェルデンはじっと麗しい黒髪の新国王の顔をした主音を見据えた。
朱音が口を開きかけた途端、フェルデンが礼の形をとり、よく通るあの心地よい声で言った。
「お初にお目に掛かります、新国王クロウ陛下。わたしはサンタシの国王ヴィクトル・フォン・ヴォルティーユの実弟、サンタシの騎士団司令官フェルデン・フォン・ヴォルティーユと申します。この度のご即位を兄ヴィクトルともどもお喜び申し上げます。今後も両国にとって、よい関係が続きますよう」
流暢な言葉は、朱音の心をものの見事に打ち砕いた。
(そうだ・・・、わたしはもう朱音じゃないんだ・・・)
瞬きをするのも忘れて、朱音はへたと腰掛けていた椅子の背にもたれかかった。
大好きなフェルデンが、あんなにも会いたかった騎士が目の前にいるというのに、朱音として声を掛けることさえできない。
「今やあなたはこの国の最高権力者なのですよ。あなたがわたしに命令を下せば、チェスの駒を動かすようにいとも簡単にわたしは動くというのに」
喫驚し、黒髪の少年は耳の飾りを揺らしながら、国王の側近の手を掴んだ。
「サンタシから、フェルデンが来ているの!?」
突然壇上でアザエルの腕を掴んだ主の行動に灰の目を丸くし、ルイがあたふたと慌てた。
「へ、陛下・・・? ここは壇上ですよ・・・!」
それでも掴んだ手を離そうとはしない黒髪の少年王に、アザエルは不敵な笑みを浮かべた。
「陛下がお望みならば、ここへお呼びしましょう」
アザエルが警備にあたっている兵に目配せすると、パーティーの人ごみが割れ、通り道ができた。その人の道の奥から少しずつ懐かしい色の金の髪が見え始め、ゆっくりと長身の男が姿を現した。
「・・・フェル・・・」
どんなに願っても二度と会うことは叶わないと思っていた愛しい青年が、人垣から一歩進み出た。その後ろには懐かしいロランの姿はなく、いつしかセレネの森で見た小柄な騎士の姿があった。凛とした男らしい顔で、フェルデンはじっと麗しい黒髪の新国王の顔をした主音を見据えた。
朱音が口を開きかけた途端、フェルデンが礼の形をとり、よく通るあの心地よい声で言った。
「お初にお目に掛かります、新国王クロウ陛下。わたしはサンタシの国王ヴィクトル・フォン・ヴォルティーユの実弟、サンタシの騎士団司令官フェルデン・フォン・ヴォルティーユと申します。この度のご即位を兄ヴィクトルともどもお喜び申し上げます。今後も両国にとって、よい関係が続きますよう」
流暢な言葉は、朱音の心をものの見事に打ち砕いた。
(そうだ・・・、わたしはもう朱音じゃないんだ・・・)
瞬きをするのも忘れて、朱音はへたと腰掛けていた椅子の背にもたれかかった。
大好きなフェルデンが、あんなにも会いたかった騎士が目の前にいるというのに、朱音として声を掛けることさえできない。