〇●ポーカーフェイス●〇
しばらく何処と無く歩き、ポケットに手を入れると一枚の紙切れが手に触れる





取り出すと、電話番号が書いてある紙切れが






何かあったら、ダメになったら連絡しろよ。






そんな末永の顔を思い出した





さっき裏切られたばかりなのに、また誰かを信じようとしている






ほんと私は馬鹿だ





人は誰かを信じないと生きて行けないのか






人を信じて生きていきたいのか…






それと同時に西岡俊介のぐったりとした血だらけの姿を思い出す





私はくしゃっと紙切れを丸め、ポケットに入れた





もう誰も傷つけたくない






そう歩き出そうとした時、






「東城…?」





そんな言葉にはっと顔を上げた





目の前には末永の姿



「何で…」




それだけ呟いた





「いや、バイト帰り!昨日サボっちまったから今日ラストまでだった」





そう言ってわたしの全身を見渡す





そして真剣な表情になり、私の手を握った






「何があった?」





そんな言葉に少し沈黙が流れ、
ふふふっと力なく笑った




「私って本当にバカ。学習能力ないのよ。宏太、ただのゲームだったの。



私を落としたらゲーム終了!




汚い男に囲まれて?何されたかは言わなくてもわかるでしょ?




ま、一番汚いのは私だよ。
宏太だって言ってた。汚ねえって。私に触れて来なかった」





わざとらしく明るくそう言い放つと末永は握った手の力を増す





「そいつどこにいる…」






そう怒りで震えている末永




私はまたわざと笑う




「大丈夫だって!そんな大ごとじゃないのよ。



こういうの慣れてるし…
慣れてるから大丈夫…
いつものことだから




それにほら、お金だってもらったの。一日で60万だよ?いい仕事でしょ?」





そう握りしめた札束をみせた





末永はそんな札束を奪い取り、地面に叩きつけた






そして真剣な眼差しで私を見る





「大丈夫じゃないだろ?




こんなの慣れるわけない





慣れちゃダメなんだよ…





今まで、夏華ちゃんが死んだ時、誰かに裏切られたとき、





この札束があって何か変わったのかよ?





お前の傷は癒えたことはあったのかよ?





悔しいなら怒ればいい
悲しいなら泣けばいい
怖いなら怖いっていえよ





こんな紙切れじゃ何も変わらない




お前の孤独も哀しみもなにも消えないんだよ…





それはお前が一番わかってんじゃないのか?」






そんな言葉たちが私を突き刺さす





そして今までの辛かった時間と暖かい時間を一つ一つ思い出した





私はなにもない





私は弱い




私はガクッと肩の力を抜き、末永の胸にもたれかかった





そして小さく方を震わせた




そんな小さい私を末永はぎゅっとだきしめた
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