3 year 君と過ごした最後三年 (version.mystery and suspense)
隣りでは信号を渡りきることのできなかった人たちがいらだちの装いを見せていた。車がそれを遮り走りだしていく。
停留所に止まっていたバスが発車の時を知らせるようサスペンションを細かく刻みだしている。
手前コンビニ横の灰皿でたむろし、煙草を手にする人々が「もう少し待て」といわんばかりにそれを擬視している。
一度逃せば五分と開かない信号、一度逃せば十数分とこないバス。学生や社会人たちは必死だ。
時を持て余したわたしは、友達がいないかと辺りに視線を移してみた。誰もいない。また時計を見た。二分と進んでいない。
世の中そんなにうまくでできていなかった。
顔を上げるひとりの女性が眼に入った。
黒のニーハイソックスにベージュのショートパンツ、白のTシャツに黒のパーカー。きれいというよりは可愛いという顔立ち。十七、八。
服のわりに顔は幼く、制服こそ着ていないけれど高校生にも見えなくはない。
わたしはそれを見て呼吸を止めた。
隣りには裕也がいた。頬を緩め、人の入れない距離と空間をつくる裕也がいた。
「な……。……」
思わず言葉が途切れ落ちた。
灰皿の横で女の人と呼ぶべき印象の女性は、黒くコーヒーのように見える缶を持ち、彼をその大きく澄んだ瞳に写している。
彼より背が低いことから百六十より少し低いことがわかる。その差から百五十五のわたしより少し高いことがわかる。
缶の中身を口に移しては奥へと流し、細く白い首のしなやかな隆起が、それをいざなっている。