3 year 君と過ごした最後三年 (version.mystery and suspense)
横では背広姿の社会人や学生たちが走りバスへと乗り込んでいた。
何度もそちらに眼をむけた人が、あきらめたかのように煙草を消し乗り込んでいた。
女の人は缶を裕也へと預け、パーカーから定期らしきものを取りだしている。裕也はそれを見詰め、受け取った缶の液体を口へと移している。わたしはそれをただ、見詰めている。
ひかれていた。にぎられていた。触れられていた。ふたりが、裕也と女の人がバスに乗り込んでいた。
「裕也……」
行き場を失くし呼吸が、また止まった。
わたしと裕也の間には互いに踏み入り侵さないテリトリーがあった。恋愛に口をださない、暗黙のルールが存在した。
知るのは、彼が年上の女性を好みとしていること。付き合っている人がいるという噂があること。ふたりの手が繋がっていたこと。
その言葉が文字と化し音と化し、心と想いの狭間で消えていた。
ケミカル音だけが響く空虚な空間で、木魂(こだま)し無と化し消えていた。
わたしはひとり佇んだ。
雪を纏った冷たい風がひとつ、吹き抜けていく。
人が何もなかったよう、優先の時が変わった信号を歩きだしていく。
「そっか……」
わたしは小さくそういった。
「そういうことなんだ……」
小さくうなづきそういった。
「じゃあね……」
言葉がひとつ、
「バイバイ……」
何かがひとつ、形を失くしこぼれ落ちてそして消えていた。
一瞬肩を振るわせうつむく。なにもいわずうつむく。
わたしはひとり歩きだした。
振り返ることも想うこともせず、歩きだした。
雪が少しだけ、その結晶を大きく重くし降りそそいだ。
ふたり長い一日は、まだはじまったばかりだった。