3 year 君と過ごした最後三年 (version.mystery and suspense)
ベーカリーの前でわたしは、ひとり残され所在を失くしている。
足先をもてあそんでは落ちる雨雫をみて、右手を強く握りしめている。
降りそそぐ雨には、頬を伝う涙も含まれていた。
「なに、これ?」
そういって裕也の顔を見上げた。
彼は店からでてくるなり、なにもいわずただその袋を差しだしていた。ベーカリーの名前の入った袋だった。
裕也がわたしの右手をとり、指先をほどいていく。その袋を持たせ、またそっとにぎらせていく。
「じゃあ、先にいくな」
彼はいった。その日ふたつめの言葉が、それだった。
袋のなかには、クロワッサンと生クリームのコルネ、そして「昼食用」と書かれた紙とアボカドとツナ、レタスのサンドイッチが入っていた。
ダークグレイのハンカチも入っていた。