3 year 君と過ごした最後三年 (version.mystery and suspense)
episode 1,2
―― 前日
序章はこの日はじまっていた。
すでに辺りは暗く月もない。
一階のリビングでリラクシングチャアに体を預けたわたしは、膝を抱えひとり受話器を手にしている。
フローリングの床には黄色い子いぬとも小さなきつねともとれないぬいぐるみが置かれ、点で表した眼口、小さなハナ、体のわりに大きな愛くるしい顔がわたしを見詰めている。
それを足先で突きながらわたしはいった。
「だから昨日(日曜)にしたらっていったんだよ。それならいっしょにいけたんだからさ……」
「ごめんね。でも、一才にもならない娘を亡くしたおばさんの気持ちもわかるでしょ?その供養を亡くなった日にしたいのも」
「それはわかるけど」
「明日にはおみやげ持って帰るから」
「あのイラブ―っていうのは絶対に嫌だからね」
「コーレーグスは?」
「いらない。苦手だもん」
ぬいぐるみが転がり離れていく。それを足先でつまみ呼び戻す。言葉をつなぐ。
「そうじゃなくてフルーツとかお菓子とか」
「贅沢な子ね。一応は探してみるけど、あるかどうかわからないわよ。時間だってないんだから」
「期待してるからね」
「はいはい。戸締りして寝るのよ」
「わかってる」
「おやすみね」
「はいおやすみ」
受話器を置き小さく呼吸をはく。辺りは暗く人影もない。アナログ式の時計が刻む音だけが聞こえている。