隷従執事の言いなり
碧がいなくなった部屋は、何故か少し寒くて。
「一体何だったんだろ…」
結局碧の行動の真意は分からないまま。
どうしてあんなに取り乱していたのか。
どうして今まで頑なだった執事としての位置を崩したのか。
どうして胸元にキスなんてしたのか。
そして疑問が残る言葉の数々。
聞きたい事はいっぱいあるのに。
それに碧の事、もっと知りたい。
こんなに長い間一緒にいるのに、私の知らない碧はきっと数えられないくらいたくさんいる。
それに比べて、きっと碧は私の事をよく知ってる。
執事として私をいつも見てきたんだから。
『碧…』
口から漏れた愛しい名前に、トクンと胸が鳴る。
自分で言ったくせに、響きだけで碧は私をドキドキさせる。
『ずるい…碧はずるい』
今日だってそう。
碧だけが全部分かってて。
私は只目まぐるしく変わっていく状況に喜んだり悲しんだり困惑したり、あたふたしてちっとも真意なんて探る余裕も無かったのに。
本当にずるい。
「どんなけドキドキしたと思ってんだ馬鹿ー」
もしあれが只の気紛れなんだとしたら、これ以上私を期待させるような事はしないで。
期待の先にあるかもしれない絶望を味わうのは御免だ。