隷従執事の言いなり
さっぱり状況がつかめないまま、されるがまま碧に連れてこられたのは、お客様用の寝室だった。
「ちょ、ちょっと碧っ?私どうもしてないよ?」
おいたわしい…って言ってたし、何か勘違いしてるんだと思って碧にそう伝える。
しかし碧はそんな事分かってるとばかりに笑みを零した。
『どんなに下手くそな嘘でもお嬢様相手になら問題ありませんね』
何時の間にか閉ざされた扉を背に、立つ碧は何処か色気を纏っていて。
「なんのこと…っ」
なんとなく嫌な予感がして、肘に引っかかっていただけになっていたストールをしっかり肩に羽織り直した。
『警戒、していらっしゃいますね?』
碧は笑みを浮かべながら、白い手袋をスポン、スポンと両手から抜き取り、小さくたたんで胸ポケットにしまった。
この雰囲気何処かで…。
「あ、おい…?なんか怖…きゃっっ」
碧を警戒するせいで、一歩一歩と後ずさりをしていた私だったけど、持ち前の鈍臭さが発動し、足をぐねってグラリと体が揺れる。
『椿っ!』
碧の声が聞こえたのと同じくらいに、碧の匂いが鼻を掠めて。
気づいた時には危うい体制で碧に抱きかかえられていた。
「び、びっくりした…」
『それはこっちの台詞だ!馬鹿!』
あんまり碧が大きい声を出すから、萎縮してしまって、私は碧の腕の中で小さくなるばかり。
「ご、ごめ…なさ…」
『お前はもう少し自分の鈍臭さを自覚しろ』
不意に至近距離で会った目は、吸い込まれるかのように私を惹きつけ、一瞬時間が止まったようだった。