ちよりさん
 
母が死んだからといって悲しんでばかりはいられなかった。

寒さで身体は震えたし、時間がくればお腹もすいた。
何より、親父が虚を突くように帰ってきた。


高架橋は倒れ、火事が全てを焼き尽くした。



私は全てを失っていた。


母の葬式を済ませてしまうと単身赴任中の親父の元へ行くしかなかった。

単身赴任とは名ばかりで、そこには愛人がいて、すでにいっしょに住んでいるってこともわかっていた。
というか、別居したのを体よく単身赴任中と呼んでいるのだって知っていた。



私は母を護ると決めていたし、母を捨てた親父を憎んでもいた。
だから、親父の元へ行くことは屈辱以外の何物でもなかった。

それでも、親父の元へ行くしかなかった。



転校の手続きはすでに親父が済ませていた。

私は感傷にひたる暇もなく、追い立てられるように生まれ故郷を後にし、西へ向かった。




 
 
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