ちよりさん
リビングの灯りはついたままだった。
「トイレはその先ね」
そう言いながらちよりさんは2階へ上っていく。
私も後に続いた。
「ここしか空いてなかったの」
ちよりさんはドアを開け、振り向きざま私の背中を押した。
私に与えられた部屋は2階の一部屋だった。
一部屋とはいっても2階の全フロア、6畳間が4つは入りそうな広い部屋だった。
「時間がなかったから、ベッドしか買ってないのよ」
「あの、ここは・・」
あまりの驚きで声がもれた。
何だか、久しぶりに声を出したような気がする。ちよりさんはにっこり笑った。
「いいのよ。私、めったに使わないから」
そこは元々ちよりさんがアトリエとして使っていた部屋らしい。
白木のフロアには落ちた絵の具の痕がぽたぽたとついていたし、部屋全体に絵の具の匂いが染みついていた。
それは否が応でも歴史を感じさせた。