一年と二ヵ月


当たった拍子に

「痛っ…」

なんてわざとらしい声をあげて、
おじさんに気付かせる。


案の定、おじさんは焦りながら
カバンの位置をずらす。


―――――――よっしゃ!


って思ったのは
ちょっと間違いだったみたい。


あたしが体当たりしたはずみで、
おじさんの前にいた人が
何かを落としてしまったらしい。

カツンッて音がして、
「やべっ」って声。

声の主を探してみると、
多分あの背の高い若いサラリーマン。

やっぱあたしのせいだよね。
ちょっと申し訳ない……


この満員電車の中で
しゃがむことはまず無理。

おまけに落ちた音からして
なにか小さい物。

探すなんて、もっと無理。

男の人は諦めたらしい。



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