一年と二ヵ月
「ごめん、な。」
ずっと黙っていた拓真が、
いきなり喋りだした。
「…何が?」
「許嫁がいたこと、黙ってて。」
「いい、よ。別に。
何か理由があったんでしょ。」
拓真を見上げると、また黙りこんでいた。
「でもね……」
「でも、何?」
口を開いて、止めた。
『何であたしを、好きだと言ったの?』
聞けるわけない。
許嫁がいるからって、
絶対その人を好きになるとは限らない。
でも、それ以前の問題で。
ただ、純粋に、
あの時、拓真が言った言葉が
本心なのか、聞きたかっただけ。
でも、今さらそんなことを
拓真に言ったってしょうがない。
あたしはもう、拓真を好きじゃないし、
これからも戻ることはない。
だったら、別に、
本心だったかどうかなんて、
もうどうだっていい。
そう、思っただけ。
「…………?
なんだよ。」
「やっぱ何でもない!
気にしないで!
早く行かないと遅刻するよ。」
あたしは走り出した。
拓真は不思議そうにしてたけど、
あたしを追って走ってきた。
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