華と…



そうだった。

覚えてる。



この二階堂呉服店に二十年以上奉公している坂本は、わたしが小さい頃から良く知っているのだ。

小さい頃はよく手を引かれて、散歩に行ったり、公園で遊んで貰ったり。

父に言われ、一緒に好物のクリーム餡蜜を食べに連れて行って貰ったりしたものだ。

一人っ子のわたしには、歳の離れた兄のような存在でもあったのだ。


いつからかな……、わたしが彼と距離を置き、彼を店の番頭として見るようになったのは。

急に懐かしくなった。


「クリーム餡蜜が食べたいな……」


気がつけば、そう呟いていた。

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