華と…
わたしは急に現実に引き戻された。
「ご、御免なさい。
坂本さんだって、お仕事中だったのに。
わたしったら自分のことばかりで……
これじゃ本当に、只の我が儘娘ですね。
わたし帰ります。
雄一に謝らなくちゃ」
わたしは、残っていた餡蜜を勢いほお張った。
蜜の柔らかい甘さが、わたしの気持ちをリセットさせる。
「ご馳走様でした。
今度はもっとゆっくり、餡蜜を味わいたいな」
わたしは一人で先に甘味屋を後にした。
店の急な階段をゆっくり下りて外へ出た。
目の前に広がるいつもの街並み。
豆腐屋があって、肉屋があって、本屋があって。
この通りの先のT時路正面に、二階堂呉服店がある。
東京にしては珍しい、昔ながらの商店街だ。
ここは、わたしの生まれ育った街。