華と…
『みゆき』
その名を雄一の口から聞くのは、二度目だ。
一日たりと忘れことのないその名前を、再び雄一の口から聞くことになろうとは。
――そっか、深雪さんは、もう亡くなってここにはいないんだ……
彼女の死に安堵する自分と、死してなお、雄一の心に住む彼女を妬ましいと思う自分がいた。
――なにも、こんな最果ての地まで来て、こんな思いをしなくても……
現実か現実でないか、悲しいか悲しくないかなんてどうでも良かった。
今まで心の奥に押し込めてきた不安を、どう鎮めたたらいいかわかりさえすれば。
わたしの心は震えていた。
小さな山を後ろ手に控えた小さな寺の前で、雄一は車を停めた。