華と…
救急用の通用口から院内に入ると、外来診療の終わった薄暗い待合室の静けさに気持ちが沈んだ。
そこには、鼻をかすめる消毒薬の臭いと、独特の冷たさが広がっていた。
ここは、人が病んだ身体を休める癒しの巣であり、人生を終えた屍が入る為の棺桶でもあるのだ。
母は、ここを元気な姿で巣立って行けるのだろうか……
雄一がそっと触れた手の暖かさを背中に感じながら、わたし達は静かな廊下を進んでいった。
循環器内科の入院病棟に上がると、待合室に父がいた。
「嗚呼……、華、雄一くんも、悪いな……」
「お母様は?」
「今、点滴交換と、血圧チェックだそうだ……」
「意識は?」
「まだ覚めないが……、でも、わたしが傍にいるのがわかるようだよ……」
それが父の自己満足なのか、果たして事実なのか、わたしには確かめる術がなかったけれど。
見るからに父の様子は疲弊していた。
それは、体力的というよりは精神的に追い詰められた子供のような危うさだった。